何倍にもお金を大きくしてから、国民にお返しする
「減税・給付は総額約5兆円。1人4万円の減税。非課税世帯には7万円の給付を行う。過去2年間の増収分を直接還元する」岸田総理の記者発表を聞いて、私は愕然となりました。少子化対策、防衛費の算段も見通せていない今、なぜ国民の皆 […]
「減税・給付は総額約5兆円。1人4万円の減税。非課税世帯には7万円の給付を行う。過去2年間の増収分を直接還元する」岸田総理の記者発表を聞いて、私は愕然となりました。少子化対策、防衛費の算段も見通せていない今、なぜ国民の皆さまに増収分をお返しなくてはいけないのか。
「可処分所得を伸ばして消費拡大につなげ好循環を実現する」と言われても、この金額ではどの程度の効果があるのか疑わしいと思うのは、私だけではないでしょう。本来あるべき姿は「国民の皆様からお預かりした税金を使って日本経済を回し何倍にもお金を大きくしてから国民にお返しする」ものであって、税金の増収分をそのままの金額で返すのでは残念な政策であると言わざるを得えません。
先日「第3回、日米ヘルスケア・イノベーション・ラウンドテーブル」が日本で行われ、私は司会を担当しました。この会議には、日米の政府、官庁、製薬企業のトップが一堂に会するハイレベルな会議で西村経産大臣も会場に駆けつけてくださいました。今世界で急成長を遂げているのは医薬品産業です。
国内での納税額を見ると、医薬品産業は最近10年間で3.5倍も伸ばしています。一方で日本の基幹産業と言われる自動車産業では同じ10年で納税の伸びは横ばいです。さらに、2016年から医薬品産業は海外への売り上げが伸びており2021年では国内売り上げの2倍を海外で稼ぐことのできる産業に育ってきています。
しかし、あろうことか今まで日本政府は医療保険料で運営できなくなった足りない社会保障の費用を薬の価格を下げることで医薬品産業に負担させ、産業の育成を怠ってきました。そのしわ寄せは大きく、多くの製薬企業が日本からの撤退を余儀なくされました。
この結果、コロナのワクチン開発では欧米の後塵を拝し、多額の税金を使ってワクチンを輸入しなくてはいけない、悲惨な状況を招いてしまいました。さらに困った事に、現在日本で使える薬は、世界で使われている薬のわずか41%となっています。世界で流通している薬の中で、日本人が使えるのは半分以下という恐ろしい状況を招いてしまったのです。
本来なら高齢社会に向かって一番役立つ医薬品産業を、日本は国をあげて叩いて搾り上げ、成長を鈍化させて来たのです。医薬品産業の成長を挫く政策が行われなければ、納税はもっと伸び、今よりずっと日本経済は潤ったはずです。ラウンドテーブルでは西村経産大臣から「日本政府は医薬品産業育成に政策を転換すべき時期に来ている。円安を利用して、世界から日本の医薬品産業に投資を促す事が重要だ」というお話を頂きました。
会議の最後にベンチャー企業の方が「今の日本の制度で、日本国内で起業すること自体がベンチャーになっている」と発言され、私も思わず苦笑してしまいました。一昔前は税金でお預かりしたお金を出来るだけ無駄を省き「予算」という形で行政はそのままの金額を国民の皆さまにお返ししていました。
しかしこれからはお預かりした税金を何倍も大きくする政策に予算は使うべきだと私は考えます。経済をしっかり回して、社会保障、安全保障、少子化などの課題を解決していくのです。労働人口が減るなら、一人一人の収入を増やすことを国として目指すべきです。将来性のある産業に、国は成長を阻む規制を取り除き、税金を使って世界から投資を呼び込む仕組みをつくることが、今後重要なってくると私は考えます。